目前の、臨海学校

８月は、この学園では臨海学校があるらしい。
全学年揃って、福岡だと聞いた。
楽しみ半分。もう半分は、気乗り出来ないでいる。

学校から一歩出て街を歩けば、沢山の声がする。
その声は、音として発せられたものではなくて、人が心で思っていることらしい。
耳に聞こえるものとは別に、喜怒哀楽の思いが飛び交って、とても重い。

武蔵坂学園の生徒のものは聞こえることがない。
集団で行くのだから、普段街を歩くよりも軽減されるのだろうけれど……。


「怖いな、ぁ……」


帰りがけに立ち寄ったコンビニで買ってきた旅行雑誌を開いて、深く溜息をつきながら零す。
引き攣った表情を手の平で揉んで和らげ、
ベッドに投げ出した体を捻り、所々染みのある木造の天井を見上げた。

楽しいだろう行事にこんな気分では、誰かと一緒に行動するのは申し訳がない。
一人で人気を避けるように行動すればきっと、自分なりに楽しむことは出来るのではないか。
黙考の末に浮かんだ考えに、頷いた。


「（それしかないよね）」


灼滅者の力にまだ慣れることが出来なくて、
戸惑うばかりで過ぎ去る毎日は時折、笑顔が消えてしまいそうで、恐ろしい。